雨音が激しくて慌てて飛び起きた、九州ツーリング6日目。 昨夜眠気をこらえて天気予報を観た時は90%という超高確率が発表されていたのでそれほど落ち込みはしない。 前日に買っていたパンと板チョコをかじりながら、食堂で今日の予報を観ます。 『今日はずっと雨らしいぞ』 しばらくユースに連泊して阿蘇の写真を撮っているという中年男性が苦々しそうに教えてくれる。 徒歩で阿蘇に登っているこのアマ写真家氏も雨はいまいましいんでしょう。 『ゴウ、アソ?』 これは2週間ほど日本を旅するという謎のスイス人。 昨夜少し話して仲良くなったが、日本語は全く話せず英語もカタコトなので、コミュニケーションはほとんど身振り混じりになる。 ボクの英語も超カタコトなので意思疎通できているか微妙なところだけど、なかなか楽しく話せてます。 姫路にも立ち寄ったという事で地元ネタでも少々盛り上がった。 アンディ・フグに似たナイスガイなのですが、ちょっとバイセクシャルっぽいので色んな意味で恐い。 他にも西洋人のカップル、日本人女性と日本語ペラペラの白人美女、ソロツーリング中の男性が泊まっていました。 外国人と日本人がちょうど半々ずつ。 こういう賑やかさがユースの最大の魅力なんですよね。 『ノーノー、トゥデイ アイ ゴー トゥ タカチホ』 文法なんてどうでも良いの、通じれば。 『ホワット?タチカ…?』 通じないけど。 とりあえず(仮)フグくんは電車で別府に向かい、温泉に入るというような事を言っていました。 食堂で話し込んでいるといつの間にか9時をまわっていた。 かなり雨は強いが、今日一日ユースに籠もるのはあまりに惜しい。 悩みながらマップルを眺める。 当初は高千穂などの阿蘇周辺を走り回るワインディングの1日にしようと思っていましたが、雨天でこれはちょっと無謀です。 そこで土産を買いに福岡市まで走ってみる事にします。 太宰府辺りなら土産物が多いし、個人的に合格祈願に行っておきたかったのです。 前日走った国道57号を熊本まで戻り、そこから国道3号で北へ向かえば、ほとんど直線で迷う事はなさそうだが。 これだと市街地走行ばかりになるので面白味に欠ける。 そこで阿蘇から玖珠町へ抜ける山中ルートで太宰府を目指す事にしました。 雨の中の渋滞よりは、雨の中のワインディングの方がマシかと。 どっちもどっちなのですが。 そうと決まれば悩んでおられません。 意を決してユースの面々に別れを告げ、出発します。 |
すでにビショビショ |
見ての通りのザーザー降りです。 一瞬戸惑ったけど、ここまで来ればもう引き下がれません。 カッパを羽織り、コンビニのナイロン袋を靴下の上に履き、そのうえでブーツを履く。 タンクバッグは長時間走ると浸水するので、ゴミ袋をかぶせて様子をみる事にします。 走り出すとかなり雨脚が強い事に気付きました。 シールドを叩く雨音がバチバチと喧しい。 また眼鏡とシールドがすぐに曇るので、完全にシールドが閉められず、2日目のように鼻があっという間に凍えます。 さらに問題は手袋。 革なので濡れると色落ちするうえ、なかなか乾かず、乾燥すると縮む恐れがある。 こればかりはどうにも仕方ないので、ユース近くのコンビニで台所用のゴム手袋を購入し、防水手袋の代用とする。 しかし少し走っただけで手が冷え切り、指先がかじかんできます。 ゴム手袋1枚じゃ、薄かったようです。 加えてさらに悲劇が。 カッパのズボンが大きく裂けちゃっているのです。 しかも股間が。 安物の自転車用雨カッパだから、何度も足を広げて乗り降りする際の引っ張りに耐えられなかったのでしょう。 しかしなぜ股間なんだ。 雨が染みこんで、ジーンズがちょうどアレになってしまったように見えます。 これはとてもじゃないが太宰府まで耐えられそうにないので、少し先のホームセンターに入りました。 まずゴム手袋の上に履ける、大型の作業用防水手袋を買う。 さらにセパレートカッパのズボンだけを購入。 今後も使えるようにアウトドア風のちょっとしっかりした物を選びました。 さらにタンクバッグにかぶせたゴミ袋を固定できるようなゴム紐を探します。 今のままで走るとゴミ袋が風でめくれあがって、まったく防水の意味を果たしていませんでしたから。 あまりめぼしい物が見つからないので、店員さんに尋ねます。 『すいませーん、自転車のカゴにかぶせるようなゴム紐かバンドありませんか?』 『えっと確かこの辺りに……ありませんね(汗)』 しかしボクが事情を説明すると、荷造り用のビニール紐を1メートルほど切って、タダで下さいました。 そうか、その手があった! 店員さんの機転と優しさに感謝です。 新しい手袋とカッパに身を包み、再び走り出します。 急場しのぎの台所用+作業用グローブ重ね履きですが、意外なほど快適。 まったく水は染みませんし、どちらもそれほど厚手ではないので操作性も悪化しません。 タンクバッグカバーのゴミ袋もバタつかなくなりましたが、紐で縛ったのでカメラを簡単に出す事ができません。 また、この後はそれはもう雨が激しかったので、全くと言って良いほど撮影をしていません。 文章ばかりになりますが、ご了承下さいね。 国道57号沿いのホームセンターから国道212号線に入り、阿蘇の外輪山を駆け上っていきます。 ヘアピンを繰り返しながら高度をドンドン上げていく素晴らしい峠道なのですが、それを楽しむ余裕はありません。 前車の巻き上げる水しぶきで前が全く見えないので肝を冷やしながら走ります。 極力バンクさせず安全運転しているとやたら煽りをかましてくるクルマが多い。 雨の時くらいゆっくり走ってても大目に見てよね。 意地を張ってひき殺されてもかなわんので、後ろが詰まる度に路肩によって先を譲りながら走ります。 少し走ると雨は小降りになったものの、標高を上げていくと今度は真っ白な霧が行く手を遮り始める。 あの有名な“大観峰”の辺りでは阿蘇の遠景どころか、3メートル先も見えません。 恐い、恐すぎる。 肝を冷やしながら212号を北上し、小国町へ。 “道の駅小国”辺りは今走っている国道212号の他、387号、442号の3本の国道が複雑に交わっています。 タンクバッグをビニールでくるんで地図の見られないボクは、あっちへ行ったりこっちへ行ったり…。 現在位置が分からなくなったので、仕方なく紐を解いてタンクバッグから地図を出して確認。 どうやら当初のまま212号を北上し続けていれば迷う事はなかったようだ。 じつに30分あまりも行ったり来たりを続けた後、ようやく正しいルートを見つけ出し、再び212号を走ります。 依然しとしとと降り続ける雨。 小国町以北はマップルでは“交通量大”とあるものの、雨天のためかクルマの数は少なくて流れは良い。 道沿いには白岩、杖立などの温泉郷や郷土料理の馬刺しを扱う料理屋があったりして、わりと賑わっている。 この辺りが大分県との県境だ。 笑顔で温泉から出てくる家族連れを見るたび、雨の中バイクで走っている自分が哀しくなってきた。 それでも渓流と山肌を縫うように走る212号の美しい情景は、ボクの心を慰めてくれます。 雨に濡れた路面と木々もなかなかオツなものです。 混み合う事もなくマイペースで212号を走ると、やがて大分市〜鳥栖市を連結する国道210号線へ出る。 この210号を西に向かって、筑後川沿いを走るとすぐに大分/福岡県境を越えます。 福岡県入りしてしばらくは好ペースで走れたものの、久留米市内でいくつもの信号と渋滞に阻まれ牛歩を余儀なくされる。 さらに悪い事に雨脚が突然強まり、良くいう“バケツをひっくり返したような”土砂降りが容赦なく襲ってきました。 おまけに信号待ちしていると立ちゴケしそうなほどの横風も参戦。 今日のヨシズミ氏はいったい何の恨みがあったのでしょう。 土砂降り+暴風という一連のコンボは、コンビニ袋で防御していたブーツと靴下をも貫通して完全にビショビショ。 カッパの襟からも雨が滑り込み始め首周りが次第にジットリ。 徐々に体温を奪われていきます。 心が折れそうになるが、引き返そうにも引き返せない所まで来てしまっているので、とりあえず先に進む事にする。 道路脇のJAだか郵便局だかの時計を見るとすでに12時を回っている。 210号を20q進むのに1時間以上かかっています。 このあたりで完全にグロッキーとなりネットカフェを見つけ次第、転がり込んで翌朝まで過ごそうと考え始めています。 まあ、そんな時に限ってネカフェって見つからないんですがね。 で、なんだかんだ言いながらも走り続けると、いつの間にか目の前に国道3号線が見えた。 これを北上すれば太宰府までまっすぐ行く事ができる! 3号線に入ってすぐコンビニで久々の休憩。 カッパを脱ぐのも面倒だし、中には入らないで軒下で雨をしのぎながら一服しました。 冷たいやら寒いやらで、体のどこが濡れているのかすら分からない状態です。 この時点で時刻13:00。 この時間なら太宰府まで行って、さらにまた阿蘇まで帰れるかも知れない。 この雨の中、再び阿蘇まで帰る事を考えているなんて、我ながら本当にアホだと思うが。 それでもやまなみハイウェイを走るという目的だけは果たしたかったのです。 よし、少し休んで体力はともかく気力は蘇ってきたぞ。 心なしかさらに雨脚が強まった気がせんでもないが、こうなりゃもうヤケだ。 出発しようとメットをかぶって愕然。 激しい横殴りの雨のせいで、メットのチークパットにまで浸水が始まっている。 頭部まで濡れると不快感はそれはもうこの上なく跳ね上がります。 これはもうツーリングというよりも苦行だ。 これを耐え抜けば悟りが開かれるかも知れません。 怒り半分ナチュラルハイ半分、変なテンションで国道3号を北上。 1qも走ると久留米市から今度は佐賀県鳥栖市に入る。 いくつも県をまたぐ日だな。 もっとも佐賀県を走るのは5q程度で、すぐにまた福岡県に入る。 毎度毎度佐賀県の扱いが悪い気がするが、今回はご了承下さい。 このあたりから国道3号線は片側2〜3車線の広大なバイパスへと変わり、非常に流れが良くなってきました。 信号に引っかかる事もほとんど無く、10qほど走って何とか太宰府に到着しました。 やや小降りになったものの、依然として雨天模様。 |
この心意気をかってくれ |
到着は14時過ぎ頃。 当初の予定では正午くらいには着けるとよんでいたのですが、この天候じゃあな…。 少し離れたところの市営駐車場にG3を停め、どうしたものか思案します。 駐車場から天満宮まではちょっと離れています。 雨の中で参拝するのも悪くはないのですが…。 雨はずいぶん小降りになっているので、走ればそれほど濡れないかもしれません。 そこで傘も差さずヘルメット片手に、カッパを着たまま参道を走り抜ける。 勢いよく走ると、水を吸ったブーツが一歩ごとにズッポンズッポンと謎の鳴き声を上げています。 ただの変態に思われていないだろうか、ボク。 で、鳥居の前で写真を撮って軽く手を合わせて拝む。 賽銭は入れてませんが、ここまでの労力を考えて大目に見てよね。 その後、某有名店で購入した明太子を実家に発送。 質より量のトヨ家では割れ子を大量に送っておけば良さそうでしたが、扱っている店も分からず断念。 とりあえず目的は達したので、あわただしく太宰府を後にします。 その後国道3号線に戻り、来る時に見かけたネットカフェに入るかどうか真剣に悩みました。 しかし時間はまだ15時にもなっていません。 明日以降の事を考えれば、やはり阿蘇まで戻って仕切り直した方が、より多く観光地を回れるような気がします。 仕方ない、やってやる。 さすがに山を走るのはもうこりごりなので、ひたすら国道3号線を南下して熊本を目指す事にします。 併走している九州自動車道を利用するという手もありましたが、雨天の高速走行はできれば避けたい。 それにタンクバッグもヒップバッグもビニールでくるんでいるから財布の出し入れが困難なんですよね。 というわけで、国道3号線を走り続けます。 鳥栖市、久留米市以南は来る時とは逆に、今度は1車線となるので苦難の道のりとなりました。 福岡/熊本県境の小栗峠付近は大動脈らしからぬワインディングでしたが、あとはほとんど街中。 ストップ&ゴーの連続でいっこうに距離を稼ぐ事ができません。 特に熊本市が近づくと1時間かけて10q程度しか進めませんでした。 熊本市内に着いたのは17:00頃だけど、雨天のせいですでに薄暗くなり始めています。 夜間の雨天走行なんてシャレにならないけど、ここまで来たからには最後まで走りぬきたいものです。 市内で悠長に過ごしている余裕はありません。 熊本城で記念撮影すらせずに通過し、九州自動車道高架下をくぐって国道57号線へ。 ここからは昨日と同じルートです。 ひたすら阿蘇を向いて東に進んでいきます。 何度も書くけど、依然として小雨が続いている。 といいますか、この日はもう朝から晩まで一日中ず〜っと降り続いていたんだけどね。 そういえば今日もまた朝以降は何も食べていません。 寒さも手伝って無性にラーメンが食べたくなって国道沿いの熊本ラーメンの店に入りました。 『すいません、ラーメンセットお願いします』 『あらあら、背中まで濡れて』 それまで気付かなかったのですが、カッパを貫通した雨はライダースの背中をぐっしょり濡らしていました。 女将さんに指摘されて初めて気付いたのですが、どうりで寒いはずです。 『そんなになるまでバイクで走ってたの?』 (やばっ怒られる) 濡れネズミは迷惑だから出て行けと言われるかと焦りましたが。 『ちょっと待ってなさいよ、タオル出すから』 厨房にオーダーを通すついでにバスタオルを持ってきて下さいました。 乾いた布地なんて何時間ぶりなんだ。 一日雨の中を走り続けて心が折れ曲がりましたが、最後に人の優しさに触れる事ができました。 ラーメンもメチャメチャ美味かったし。 まあ、空腹は最高のスパイスだって言いますからね。 店を出る時も『早く風呂に入って温まれ』とか『転けないように』とかいろいろ忠告されました。 余計なお世話には違いないんだけど、本当に身も心も温まりました。 他のお客がいなかったらマジで泣いてた。 確か“熊本ラーメン火の国屋”か“火の元屋”という屋号だったかな。 さあ、飯も食べたし元気100倍。 ここからは残り20qもありません。 テンションが回復した事もあって、この最後の20qはあっという間に走り終えました。 ユースには19時頃に到着。 中に入るとヘルパーさんや、昨夜の(仮)アマ写真家氏が目を丸くして出迎えてくれた。 『雨の中走りに行ってたの?』 『はい、ちょっと太宰府まで』 『……!?』 ありありと浮かぶ“こいつアホや”の表情。 ああ、気持ち良い。 このために走っていたのかもしれません。 部屋に入って着替えを済ませ、濡れた服は洗濯機へ放り込み、ブーツには新聞紙をギュウギュウに詰める。 メットの内装も濡れたので引っ剥がしてストーブの前に吊るし、タンクバッグも空にして干す。 幸いビニール袋の防水が上手くいったのであまり中は濡れていませんでした。 洗濯機が回っている間にボクは風呂へ。 ようやく体を温める事が出来ました。 ハ〜極楽極楽。 風呂は魂の洗濯、とはどこの軍人のセリフだったか。 湯に浸かっていると別府から帰宅した(仮)フグくんも入浴してきました。 ボクの対面で湯につかり、なぜか潤んだ瞳で見つめてくる怪しいスイス人。 喰われるんですか、ボク喰われてしまうんですか? 貞操の危機を感じて退散しようとしていたところ、『アツイネ』と一言。 それだけかいっ! なんのアピールかと思ったやないけ。 で、風呂の後は昨夜同様、すぐに床に入って就寝しました。 振り返ってみれば、九州ツーリング最大の山場となった1日でしたね。 なぜか帰り道にスピードメーターが回復していたのが、唯一の慰めか。 ワイヤー切れではなく、単純にメーターギアのかみ合わせ不調だったのかもしれません。 それにしても、本当に写真が少ない1日で申し訳ありませんでした。 明日はいっぱい撮っていますからね。 ではおやす…zzz |
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本日の走行距離 290q |
5日目:霧島〜都城〜阿蘇 7日目:阿蘇〜別府 |
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